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◆ 健康と住まい−32 ◆◆◆
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◆◆◆◆ present by apss
朽木 醒(くちき あきら)と申します。
健康と住まいの32回目になりました。
32・少年犯罪の中で「住まい」の役割は?-3(この項終)
前々回は神戸の酒鬼薔薇事件の家、前回は金属バット事件の家を題材に取り上げました。
「住まい」と少年犯罪の関係を解き明かす記述としては、一応の終章として、
これもとても痛ましい事件で、女子高生コンクリート詰事件の
主犯格の少年の家を取り上げます。
3.女子高生コンクリート詰事件の少年の家:
この事件は、1989年3月に発覚したのですが、主犯格のC少年(当時18歳)
の自白が、発端でした。
C少年は、仲間とつるんで夜にアルバイト帰りの、女子高生を自転車ごと横転させ、
C少年が助け、仲間のD少年の家に連れ込み、凄惨な乱暴をし監禁、殺害、
証拠隠滅の為、死亡した女子高生をドラム缶に入れ、
コンクリート詰にして破棄した事件です。
この事件の犯行現場であった、D少年の家の間取りは判りませんが、主犯格のC少年の
家の間取りが資料にありましたので、この間取りを今回は取り上げます。
まずは、C少年が育った家のプランを見てもらいましょう。
(下記をクリックするとE図:C少年の「住まい」1・2階間取りが見えます。)
 E図:C少年の「住まい」(当時) |
http://www.bekkoame.ne.jp/ro/apssk/kennkou/meru/kenmeru32.html#ezu
このC少年の「住まい」のプランを見てみると、とても不思議な間取りであることが、
判ります。
居間と食堂が見当たらないのです。
1階は、玄関と厨房、WC、浴室、グランドピアノが置いてある応接間、
そして妹の部屋となり、2階は両親の寝室とC少年の部屋及びWCになっています。
家族の触れ合いの場が、「住まい」の中に見当たらないのです。
このような「住まい」は珍しい「住まい」と言えますが、C少年の家庭では、
生活が大変であったこともあり、母親がピアノを教えることで、家計を維持し、
そのピアノ教室のために「住まい」を建てたことを覗わせます。
家族の楽しい生活を考えた「住まい」の場合は、狭いながらもリビングダイニングを、
考えますが、このC少年の家は全く配慮されていません。
グランドピアノの置いてある応接室が堂々と大きく1階を占領しているのです。
実験住宅と言っても良いのかもしれない住宅の間取りです。
家族のそれぞれの、生活を大事にし同じ家に住んでいれば、家族としては十分で、
家族全員が集まって食事をしたり、寛ぐスペースは無駄と考えたと思われます。
いえ、土地の広さも限られていますし、予算も限られています、
その中で取捨選択をした結果だったのかも知れません。
生活と住宅ローンの為に、父親は歩合制の証券会社の社員として働いていましたし、
母親は、この応接間を使ってピアノ教室を開いて家計を助けていたのです。
したがって、間取りを考えるときの優先順位が、ピアノのある応接間や個室になり、
居間や食堂が犠牲になる、このようなプランになるのは、必然だったのかも知れません。
このような「住まい」で育てば、両親は、子供より仕事を優先しますし、
一家団欒の食事の時間も、家族ばらばらに食事をすることになり、
コミュニケーションはほとんど無く、躾はとうぜんのこと、
人のことを考える能力も、育ちません。
人のことを、思いやる心がなぜ必要で、何を考えなければならないか?
さらに、人を思いやる心があるからこそ、他人と仲良く出来、
また他人からも同じように思いやりをもってもらえる、等々の他人との関係について、
学ぶことがとても難しくなります。
4月1日付の朝日新聞の朝刊に、携帯メールから離れられない、
中学、高校生の話が出ていました。
食事時でも、携帯メールが掛かってくると、食事を食べながらでも、
メールの応対をしている子供達が多い、とのことです。
もともと、家族そろっての食事は、すでに週に1、2日なってしまっているのですが、
その少ない団欒の場を、TVが侵し、現在はさらにまた携帯メールが、
占領してしまっているのです。
もう、ほとんど家族の団欒の場は、幻想だと考えると、このC少年の家のような、
間取りも、結構現在の家族には多く存在するのかもしれません。
だからと言って、このような間取りが良い訳ではないことは、
誰が見てもはっきりしています。
家族との触れ合いが少なく、子供の頃に愛情を注がれなかった人達は、
心に大きな痛手を受けて育ってきたのと同じ状況に陥ります。
家族の愛情による、温かさや居心地のよさ、安心感や楽しさなどを知らずに育てば、
自分勝手の、一人よがりになることは、歴史が知らせてくれています。
小さくとも、狭くとも週に1度でも、いえ2週に1度でも良いのですから、
TVも携帯メールもない、家族の団欒の食事が出来る時間を取る必要がありますし、
そのためのリビングダイニングは、狭くとも絶対に必要なのです。
それでは、C少年が育った家のプランを、家族が集まれるプランに変更した図を、
見てもらいましょう。
(下記をクリックするとF図:C少年の「住まい」改良案の1・2階間取りが見えます。)
 F図:C少年の「住まい」(改良案) |
http://www.bekkoame.ne.jp/ro/apssk/kennkou/meru/kenmeru32.html#fzu
E図の「住まい」のように、食堂や居間が取れそうにないプランでも、
考え方によっては、狭いながらも家族団欒の場が確保できるのです。
居間と繋がる吹抜も付けることが可能ですし、この吹抜と居間は、
2人の子供の部屋に直接のつながることが出来、嫌な場合もあるでしょうが、
それを乗り越える忍耐力を付けるための道具にもなり、
家族と居るのはとても楽しい事なのだと感じさせる、空間としても機能するのです。
C少年の両親の場合も、あまり夫婦仲が良くなかったようです。
この両親の問題も、当然影響していたと思いますが、
片親とだけでも心の触れ合いが持てれば、状況は随分と変わってきます。
離婚するほどでもないが、夫婦の間は冷め切っていることは、よくあります。
この状況に引っ張られて、子供たちにも被害が及ぶのです。
このような場合であればこそ、よけいに親と子供の関係が大切になるのです。
そのためにも、お互いが常に顔を会わせなければならない、空間にしておくことで、
相手のことを思いやる心が生まれてきますし、夫婦間の問題点を見ていることで、
自分は、どんな人と関わりを持ち、どの様な関係の生活をしたいかとの感情がでてきます。
今回までで、3回ほど極端な例だとは思いますが、
世間を騒がせるような少年犯罪事件での、「住まい」の役割を見てきました。
全ての家に共通して言えることは、触れ合いの空間が無いことです。
この、触れ合いの空間は、薬にこそなれ毒にはならないのですが、
人は豊かになればなるほど、贅沢になり、我儘になり、
家族であっても同じ空間に居るのが、煩わしくなり、抑圧を感じてくるものなのです。
昔の貧しい時期は、それほど感じていなかったのですが、
現代では煩わしさが先にたってきます。
家族の触れ合いの場は、慣れや、訓練の場であるとの面は、否定できませんが、
家族が大勢でいると楽しくなる、との感覚も生まれてくるのです。
大勢の家族で楽しさを味あう為には、そのための空間が必要ですし、
さらに、家族と触れ合う為の忍耐や、思いやりも必要となります。
この忍耐や思いやりを学ぶ為には、やはり人と触れ合い、人と居ることが楽しい事
だと感じる為の空間・居間や食堂がどうしても必要となりますし、
さらに、その居間や食堂を通らなければ、
自分の個室に行けないような配慮が必要なのです。
今回取り上げた家の間取りは、どれも個室は贅沢に取られています。
しかし、家族の触れ合いの場が、非常に貧弱でした。
ちょっと、工夫をするだけで、家族の触れ合いの場を確保できるのが、
お解りいただけると思います。
さらに、視点を変えて、家族の触れ合いの場を重視した「住まい」を考えて、
プランを練れば、本当に家族の楽しさが味あえる空間にすることが可能です。
人には持って生まれた個性がありますが、その個性を生かすのも、
家族の応援が必要になり、さらに友人や学校で触れ合った人や職場の人、
そして協力してくれる人等、大勢の応援してくれる人たちによって、生かされるのです。
その大勢の人たちとの良い関係を維持して行くには、
基本となる家族との触れ合いが重要な訓練であり、バックグラウンドとなります。
人は一人では生きていけませんが、大勢になると何かと軋轢が出てきます。
その軋轢を避けるような、「住まい」の造りでは、精神的な歪みが生じ、
夫婦間でも問題が生じます、まして子供の場合は、その可能性がとても高くなるのです。
この3回のシリーズは、少年犯罪者が育った家を題材に、見てきましたが、
これらの「住まい」は、わが国の「住まい」の現状を良く表していると思えるからです。
「住まい」には、家族を楽しくする力も、バラバラにする力も存在するのです。
家族がそれぞれ楽な生活をしようとすると、バラバラになるのは、
当然のことと言えます。
少しでも、相手のことを思いやり、共に喜びたいと思う心が、
家族に一体感を持たせ、家族の問題点をあぶり出し、
その問題点を取り除く為に、家族と協力する心を養うようになります。
そのためには、家族の触れ合える空間と、気配を感じられる個室にすることが、
負担はあっても、本筋の考え方であり、実際に家族のためになるのです。
今回はここまでです。
次回は、健康な空間についてです。
「外断熱スパイラルエアーシステム住宅」のページです。
apssのhp参考にしてください。
http://www.bekkoame.ne.jp/ro/apssk/kennkou/kennkou1.html
ありがとうございました。
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