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A図 B図


◆         健康と住まい−30  ◆◆◆
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朽木 醒(くちき あきら)と申します。

健康と住まいの30回目になりました。



30・少年犯罪の中で「住まい」の役割は?-1

 今回は、ちょっと切り口を変えまして、少年犯罪、や離婚など家族生活と「住まい」が果たす役割を、
犯罪を犯した少年の住んでいた「住まい」の間取りを例にして、話を進めて行きます。


1.神戸の酒鬼薔薇事件の少年の家:

 神戸の酒鬼薔薇事件はここで繰り返す必要の無いほど、世間を驚かせた事件です。
一寸だけ概要を見てみますと、1997年の5月下旬に当時中学3年のS少年が、
よく遊び相手にもなっていた、知的障害のある当時小学6年の児童を殺害し、
頭部をS少年の通っている、中学校の校門の前に置き、
ゲーム感覚の犯行声明を出した事件です。
 この少年Sは、なかなか捕まらず、1月以上過ぎ第二の犯行声明を出し、
近くでの異常犯罪者のリストから、以前にも女児を殺害したり、
傷害を負わせたりしていたことから、S少年が浮かび上がり、逮捕されたのです。

 事件の概略は上記ですが、このメールマガジンの趣旨として、
このような事件を起こした、S少年とその「住まい」の関係を見てみたいと思います。

 S少年は神戸市内のマンションに両親と弟2人の5人家族で住んでいましたが、
S少年が小学1年の時に、祖母が1人で住んでいた、
北須磨の一戸建て住宅に引っ越しました。

そこでは、祖母を交えて一家6人の生活で、S少年も祖母に大切に育てられ、
明るく闊達な子供だったのですが、S少年が5年生になった時、祖母が死に性格が、
変化していったそうです。

 須磨で住んでいた一戸建ての「住まい」が、
HPにある「住まい」のプランのA図です。
(下記をクリックするとA図:1階と2階の間取りが見えます。)



  • A図:A少年の「住まい」(当時)

     間取りを見ますと、古いタイプの1戸建と思われますが、典型的田の字プランで、
    S少年の部屋は、2階の階段の登り切った所に入り口があります。
    その奥には弟達の部屋があり、1階には両親の寝室と、ダイニングルーム、
    リビングルーム、キッチン、洗面室、浴室、そして玄関の脇にWCとの間取りです。

     ダイニングルームが狭く、リビングルームが独立してダイニングルームの奥にある、
    この間取りでは、両親との関係が良好な場合であっても、
    子供との交流の場所がありません。

     子供は本来親と居ることを願がっているものなのです。
    犬や猫など動物は子供のときは、本能的に親と居るのが自然であり、
    安心できる為、親の影響範囲に居ることを欲しますし、
    親と居るだけで、楽しい事なのです。
     子供は本能的に親の保護の中にあることを望み、安心して過ごしたいと、
    願がっているものなのです。

     しかし、S少年の「住まい」の場合、子供が親と居る場所が狭く、
    親側に煩わしさが感じられる為、その感情を子供は敏感に感じ取ります。

     そのため、子供の感情は不安になり、楽しくない場所を敬遠して、
    自室に閉じこもることになるのです。
     子供は、家族に触れ合うことによって、精神的な免疫をつけ、
    集団の中で生活をしてゆける、精神力を身につけるのですが、
     免疫を付けるための触れ合い空間が無くなってしまうと、次の空間として、
    自分だけが閉じこもる第二の安住空間へこもり、自分の世界を作ろうとします。
     それは、1人で過ごせる空間であり、精神的な葛藤が無い世界ですので、
    かえって自立への大きな妨げになります。

     精神の育成も、血液の免疫と同じことが言えるのです。
     母親の母乳による免疫も有りますが、普段触れる細菌には赤ん坊の時に、
    大いに触れて、風邪をひいたり、熱を出したりして、
    血液の中に免疫細胞を作らなければ、以後生活して行くことが出来ません。

     精神の場合は細菌ではなく、人と触れ合うことで、精神的免疫を
    創り出すのですが、触れ合いの場を作るための空間が必要になります。

     一般的に、居間に階段を造るプランの場合、監視の目が行き届くと考える人が
    沢山居ますが、実は家族と触れ合うこと自体が、楽しさと不満とが共存し、
    精神的葛藤が生じ、精神的免疫を創りだし、自立を促す場となるのです。

     親にとっても、子供にとっても、煩わしいことであり、
    また楽しいことになるのが、触れ合いの場なのですが、
    免疫を付けるための訓練だと判かれば、楽しい反面、
    嫌なことがあっても当然なことが、お解り頂けると思います。

     最初から、大きな独立した空間を子供に与えてしまっては、
    嫌なこともある触れ合いの場には、出てこなくなります。

    自分だけでいれば、嫌なことは避けられ、自分なりの楽しみを味わえるからです。
     人と触れ合うことは、楽しいこともあれば、嫌なこともある、
    親と楽しいことを、一緒に味わえることは、1人での楽しみより、
    2倍も3倍も楽しさが増すことが理解でき、精神的支えになります。

     このような精神的免疫を植えつけてから、個室を与えなければなりませんし、
    その個室の主も子供ではなく、親だとの認識を持たせてから、
    与える必要があります。
    それまでは、子供の部屋も共同か、親と一緒の部屋にします。

     さて、話を元にもどしますが、S少年の場合、5年生までは、
    祖母が生きていたため、祖母との触れあいで、精神の安定を得ており、
    明るく成績も中の上程度の子供でしたが、5年生になった時に祖母を亡くし、
    触れ合いの出来る人がいなくなったようです。

     母親は専業主婦でしたが、2人の弟の面倒が大変だったのか、
    長男だから躾に厳しかったのか、ともかくS少年には口やかましく接しており、
    S少年をノイローゼ気味にしていたようです。

     間取りでも判るように、S少年には2階の1室を与え、
    弟2人は2階の共同の大部屋です。
     トイレも玄関脇にあり、食事と風呂以外は家族と顔を合せなくても済むのです。

     これでは、自然な触れ合いが出来ないばかりか、
     弟達に母を取られて、自室に直行と言うパターンになってしまうのも当然です。
     1階に弟達と一緒に遊べる広いスペースがあれば家族の中で、
    楽しさを探すことも出来、大いに精神状態も変わったのではないかと思われ、
    誠に残念なことです。

     このS少年の「住まい」の場合、間仕切りの変更程度で、
    どの様な触れ合いの空間が出来るか、ためしに考えてみたのがB図です。
    (下記をクリックするとB図:1階と2階の間取りが見えます。)





  • B図:A少年の「住まい」改造計画案

     B図は、キッチン、WC、浴室等の水周りは全く変更していませんので、
    費用はそんなにかかりません。
     階段をリビングルーム内に取り込んだため、親も子供もリビングルーム経由で、
    動かなければならなくなります。

     子供室は3人共用であり、親の寝室と同じフロアーですので、
    音や雰囲気が、お互いに感じられる空間と言えます。
     さらに、子供の成長に添って個室としての間仕切りが出来るプランです。

     家族の触れ合いが自然と出来、何時も家族が顔を合わせることが、
    普通の状態として感じられるようになります。

     リビングルームとダイニングコーナー、キッチンは1つの大きな空間になり、
    スペースとしての広がりが確保できる為、小さい頃からこのような空間があれば、
    子供達は安心して遊びながら親の確認が出来、親も家事をしながら、
    狭さを感じず大らかな気持ちで、子供たちに接することが出来るのです。

     人は、それぞれの個性もありますし、考え方も違います。
    したがって、やってみなければ判らない場合もありますが、少なくとも、
    B図のような間取りにしてあり、家族が自然に触れ合うことが出来る、
    空間で暮らしていれば、他人の気持ちを思いやる心が生まれてきますので、
    親子関係が多少おかしな関係になったとしても、
    ここまでの問題を起こすことは無かった筈です。

     家族には、嫌なことがあって当然なのです、嫌なことがあるからこそ、
    楽しいことがより楽しくなり、問題があった場合の処理能力(精神的免疫)が、
    創られて行くのです。


    今回はここまでです。

    次回も、家族関係と空間についてです。


     「外断熱スパイラルエアーシステム住宅」のページです。 apssのhp参考にしてください。 http://www.bekkoame.ne.jp/ro/apssk/kennkou/kennkou1.html

    ありがとうございました。


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