最近、少女を9年間監禁した事件の、裁判が開かれたもようが新聞に載りました。
少女を監禁した青年は、中学生になって自室をもらってから内向的で、凶暴になった
様子が書いてありました。
そこでは、自室に閉じこもる少年の弊害が、浮き彫りにされていました。
不登校児の個室による弊害は松田妙子博士の著書「家をつくって子を失う」に詳しく
出ています。
平成8年の登校拒否児50人に対するアンケート調査では個室を与えられていた
少年の49人までが、7才までに個室をもらっています。
さらに50人中34人が9時間以上個室に閉じこもっているそうです。
毎日、家族に顔を会わせる子供は2人しか居ないのです。
家族のコミュニケーションが個室を与えることで、希薄になる様子を浮き彫りに
しており、個室の弊害をはっきりと訴えかけています。
松田妙子博士はこの著書で、オープンな家造りを提唱しています。
私もオープンな家造りには大賛成ですが、それは松田妙子博士提唱する心理的な
弊害だけでなく、室内化学物質汚染の影響も十分考えられるからです。
要するに、子供の個室が化学物質に汚染された環境だったらどうなるでしょう?
4、5才より個室に閉じこもり、何時間もコンピューターゲームや、漫画、本、テレビ
などにかじりついているのですから、換気などをすることはめったにありません。
当時はまだ、それほど化学物質に対する毒性の研究が進んでなく、新建材に対する
意識も無防備状態でしたので、新築住居には多くの新建材が使われていました。
4、5才から個室を与えられた子供達のほとんどは新築住宅だったに違いありません。
換気扇が付いていた子供部屋はほとんど無く、換気扇が付いていても使用することは
めったに無かったのではないかと思います。窓を開けるように注意しにくる家族も
居ませんでした。このような、環境の中でその子供たちは育っていったのです。
家族の触れ合いが無かったのも事実でしょうが、一方で化学物質がその神経毒作用で
脳を侵してゆき、自閉症を拡大していった可能性は大いに疑われるところです。
厚生省がホルムアルデヒドのガイドラインを0.08ppmと発表したのが1997年
(平成9年)6月のことです。前記の調査は平成8年であり厚生省の
ホルムアルデヒドのガイドラインが発表される以前でした。
その他の化学物質がどれほど部屋の中に放散されていたか全くわかりません。
その化学毒の充満している個室の中で、換気もせずに何時間も子供が閉じこもっていた
ことを考えると、そら恐ろしくなります。居間にでも居たのなら、掃除や洗濯物などの
用事のたびに窓やテラス戸を空けたり閉めたりしますし、換気扇もあったかも
知れません。
このような、子供が個室に閉じこもる環境で、登校拒否程度でおさまったことは、
むしろ不幸中の幸いだったと言えることかも知れません。
ホルムアルデヒドには中枢神経を犯す毒性は無いようですが、これから規制の対象と
なる、トルエン、キシレン、などには中枢神経を侵す毒性を有していることが
確認されています。
近頃の少年の突発的な暴力的死傷事件では、少年達の暴力や犯罪に対する抑制力や
思考力が、本人の脳の内部で全く働いてないことが原因のようです。
その脳の抑制力や思考力を麻痺させる力が化学物質にはあるようです。
少し前の話しですが、「金属バット殺人事件」と言う20才になる青年の事件が
ありました。ある一家の次男が両親を金属バットで撲殺した事件です。
この一家の舞台となった住宅は高級分譲地に事件の4年前に木造住宅を建てました。
一階は6畳、8畳の和室に洋間のリビングとキッチン、風呂、納戸、二階は子供部屋
が2つあり、庭のあるこぎれいな邸宅だったと報じられています。
そして、事件は就寝中の両親を次ぎ々にめった打ちにし殺人を犯してしまったのです。
犯人は、その一家の次男でしたが、逮捕後動機について「どうしてこんなことをして
しまったのか、自分でもわからない」と繰り返していたそうです。
犯行前夜に両親に叱られたことは確かなようですが、親が叱ることは良くあることです。
当時マスコミは次男が浪人生であったことから、事件の背景に加熱した受験競争がある
との見解を打ち出しましたが、動機を本質的に解明するには至っていません。
その後、建築家が住居学の立場から推察し、この一家の間取りに問題を提示しました。
両親の寝室は別々であり、2人の子供部屋も二階に別々に造られていました。
二階に上がる階段は、玄関から直接付いており、子供は気が向かなければ何時まででも
両親に顔を会わせずに生活が出来るような住宅であり、家族のコミュニケーションが
図れなくなり、感情の行き違いが犯行に及ぶ動機となったと言うものです。
もちろん、家族のコミュニケーション不足が引き金になった要素の1つでしょう。
しかし、この一家の新築時からそれぞれの部屋に閉じこもり、勝手に生活することで
化学物質の毒素を吸い込む量が増えたことも原因の一つであることを否定できません。
前半で記述した、登校拒否児の生活パターンと、この一家の生活様式が図らずも
よく似ているのが、おわかり戴けると思います。
この事件の時期は、欧米では問題化していましたが、この国ではまだ化学物質汚染の
深刻さは全く考えられていませんでしたし、ガイドラインもありませんでした。
さらに、悪いことには、神経毒性があり、生殖機能、免疫機能などにも悪影響がある、
農薬のクロルデン(その毒性のため現在では全面的に使用禁止)が防蟻、防腐薬として
木材の土台や柱、筋交いなどに使われていた時期でした。
したがって、このクロルデンの神経毒性も併せて影響していた可能性がとても大です。
一般的に、神経や免疫等に影響を与える化学物質は脂溶性で、分子量の小さな
化学物質であり、脳の毒物用関門でガードすることが出来ず、長期間に渡り脳や脂肪に
蓄積し、徐々に脳に対して影響を与えてきたことが、判明し始めています。
有機リン系の中毒患者の治療にあたっており、奈良県で開業医をしている梁瀬義亮医師
の有機リン系農薬の被害状況の報告書では、
1.明るく穏やかで気長な人が、むっつり暗く短気に変わる。 2.鬱々として、人と接するのがおっくうになり、独り閉じこもるようになる。 3.趣味や仕事など日常のことに意欲がもてなくなり、無気力、無感動になってゆく。 4.些細なことで怒りを爆発させる。 5.生きることに意欲がなくなる、死ぬことばかり考えはじめ、自殺する場合もある。
などの、有機リン系農薬被害の症状をあげています。
神経に作用する化学物質は、有機リン系だけでなく有機塩素系、カーバメイト系、
ピレスロイド系など沢山あり、クロルデンは有機塩素系の農薬として知られています。
神経系の異常は脳の異常とつながっており、精神や神経系の症状として現れてくる
ことが判っています。脳や神経の障害は行動異常として外部に現れてくるものです。
室内化学物質汚染で登場する被害談にしばしば登場してくる症状は、
a.怒りを爆発させる b.感情のコントロールがきかない c.もの憶えが悪くなる d.漠然とした不安に悩まされる e.意志が弱くなる
などの、精神異常の症状です。
なんとよく似た症状でしょう。化学物質汚染により現れる症状は有機リン農薬被害の
症状と同じような症状が現れます。金属バットの次男や少女監禁の青年さらには、
最近多発する少年の突発的な凶暴な行動なども、化学物質が徐々に影響していた可能性が
極めて大です。
室内の化学物質汚染は化学物質過敏症やアレルギーだけでなく、精神障害まで生み出す
可能性を持った、恐ろしい物質だと言えるでしょう。
新聞にホルムアルデヒド以外の重要化学物質についての、安全指針値案が示されました。
接着材や塗料に含まれる、トルエンが0.07ppm以下、キシレンが0.2ppm以下、
防腐、防虫材のパラジクロロベンゼンは0.04ppm以下です。
これらの基準値について、厚生省生活化学安全対策室が意見を求めています。
問い合わせや資料の請求は、同室宛にどうぞ(03-3503-1711内2423)
また、前回記述した化学物質の基準値の補足として、WHOはTVOC
(有機化合物質の合計値)として0.3mg/m3(0.25ppm換算値)を
ガイドラインとして示しています。
もう一つの人類全体に与える、影響は環境ホルモンとしてのものです。
環境ホルモンとしての影響については次回になります。
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